蒸すとは 料理科学の森




一般家庭であまりしない調理方法に「蒸す」があります
皆さんは、「蒸す」と聞いたらどんなイメージですか?
今回は「蒸す」についてお話します

①安定して100℃で加熱できる(焦げない

②調理(温度)のムラができない(水蒸気は隅々までいきわたり、かき回す必要がない)

③食材に最も早く熱を通す方法(水蒸気が食材の表面で凝結し水滴となる際に大量のエネルギーを放出するため)

煮崩れがしにくい

流動性のあるもの(スープ等)は容器に入れて加熱でき、濁(にご)りにくい(スープ内で対流がおこらないため)

水溶性成分が水の中に溶け出ることがない(旨味や風味が逃げにくい)

蒸し方
100℃の温度を保ちながら加熱する場合 まんじゅう類、団子・もち類、蒸しカステラ・蒸しパン類、冷や飯、いも類、魚・貝類、肉類、スープ類など
100℃の温度を保ちながら、ふり水または、きりをふく場合 こわ飯、硬くなった冷や飯やパン類、まんじゅう・もち類
85℃~90℃を保つために弱火にしたり、蓋をずらして温度調整をしながら蒸す場合 卵豆腐、茶碗家禽類蒸し、カスタードプディングなど

適した食材・・魚介類やあくの少ない野菜。鶏の胸肉など家禽(かきん)類の、脂肪分が少なく淡白な部位

注意点
①蒸す場合、表面についた調味料は加熱中に流れ落ちずに、ほぼそのまま残るため最初の塩・こしょうの量には注意する

②微量だが物体の表面のうま味や栄養素が、水に溶け込んで失われる事がある。つまり、食品の表面積が小さいほど味や栄養の損失が小さい(大切りにしたほうが表面積が減る)

③蒸している間に調味できない

参考資料 マギーキッチンサイエンス わかりやすい日本料理 よくわかる中国料理基礎の基礎 「こつ」の科学 総合調理科学事典 NEW調理と理論

公式ホームページ 料理科学の森

懐かしい匂い 料理科学の森




皆さんは子供の頃に嗅いだ、懐かしい匂いはありますか?

また、その匂いを嗅いだら景色や感情なども思い出すこともあると思います。


臭皮質は、視覚野とは直接連結していないが統合が側頭葉の海馬とその隣の海馬傍回で行われると推測される。これにより、匂い(風味)という部分的な情報がきっかけとなって、それぞれの中枢の感覚表像に保持されていた、幼少期の体験から正の感覚刺激が、海馬において融合し、注意・動機付け・情報の脳内メカニズムによって統合された内的イメージとして再アクセスされた。


凄い難しそうな事が書いてあるが、つまり「懐かしい匂いを嗅ぐと、その時の景色・感情などが一緒に思い出される」である。

つまり、お客様(お子様)に美味しい料理(香り・匂い)と楽しい記憶や嬉しい感情を一緒に覚えていただき、また来たいお店にすることは可能という事と思われる。

参考文献 美味しさの脳科学

公式ホームページ 料理科学の森

 

ステーキを焼く時の塩のタイミング 料理科学の森




肉を焼く前に塩をする理由

こちらの記事では、肉は焼く直前に塩をすると書いたが、一方で前もって塩ふっている方が良いという見解もある。(これは当然、肉の分厚さや部位によっても話が変わる)

肉に塩をふって1cm浸透する時間

5時間・・・若鳥のキュイス(もも肉)、豚のコート(骨付きあばら肉)、仔羊のコートレット(骨付き背肉)

10時間・・・牛のコート(あばら肉)、アントルコート(リブロース

15時間・・・バヴェット(上方腹部肉)、牛のロティ(ロースト)、ジゴ(羊のもも肉)

上記のように、肉の種類や部位によって塩の浸透速度は変わってくる


ここからは、書籍によって書かれていることがバラバラである。(今回は、2018年12月に発売されたフランス式おいしい肉の教科書から紹介する)

ステーキに塩をふるベストなタイミングは2日前とされている。これは、塩が肉全体に浸透し、肉の表面がわずかに乾燥するためである。また、加熱しても肉は水分を保ち、同時に美しい焼き皮ができるとされている。

2日前に塩をふると、浸透圧の作用で水分が外に出ると思うだろうが、実際はその後肉は再び水分を吸収するため、加熱後ずっと柔らかくジューシーになる。


他にも、
①約4~5時間前にふる
②1時間前にふって、焼く前にキッチンペーパーで水分をふき取る
③焼いた後に塩をふる

等がある。ただ、ステーキに関して言えば、焼く直前に塩をふるは間違いのようだ。これは、焼いている最中に浸透圧の作用で水分が外に出てしまい表面を濡らしてしまうためである。


ここからは主観の話だが、料理技術は日進月歩で進化していく。
調理方法だけでも、真空調理や表面だけ凍らしてから調理するなど様々な調理方法が開発されている。どれが正しいかではなく、それぞれの調理方法を理解した上で自分の料理に応用してほしいと思う。

参考文献 Cooking for Geeks フランス式おいしい肉の教科書 モダニスト・キュイジーヌ

公式ホームページ 料理科学の森

 

肉をソテーする時の正しいフライパンの大きさ 料理科学の森




家庭で肉をソテーする時、フライパンを使う。しかし、フライパンの大きさによって完成に差が出ることはご存じだろうか?

結論から言えば、「大きなフライパン」と「小さなフライパン」のどちらで肉をソテーする方が良いかというと、「大きなフライパン」である。

①肉を入れたときに温度が下がらない

②肉の周りにスペースがあるので肉から出た水分がフライパン上で蒸発しやすい

 

①においては、「小さなフライパン」を使うと肉を入れた時フライパンの温度が一度下がってしまう。

②においては、「小さなフライパン」を使うと肉の周りにスペースがないため、肉から出る水分の逃げ場が無くなる。これにより、水分がフライパンにたまり、肉がそれに浸っている状態になる。一方で「大きなフライパン」を使うと、水分が蒸発し濃い肉汁が残る。また、肉は200℃前後で加熱されるため、きれいな焼き色がつく。


ここからは主観だが、「小さなフライパン」を使うと温度が下がるので悪いと書いた。しかし、なぜ悪いか色々調べたがハッキリした答えは載っていなかった。ただ、考えられるのは

①調理時間が意味もなく長くなる。

②一度温度が下がるため、温度を上げるにはバーナー(火)に依存する。これにより、安定して調理ができないため。

などと思われる。

参考文献 cooking for Geeks フランス式おいしい肉の教科書

公式ホームページ 料理科学の森

貝の砂抜き方法 料理科学の森




アサリやシジミを食べるときに、砂抜きが上手くいかずジャリっと砂を噛んだ経験は誰にでもあると思います。
砂抜きの基本的な方法は

①底が平らな容器の内側にザルを入れ、その中に貝が重ならないように並べる。

②常温の海水(塩水)を貝がちょっとかぶる程度入れる。
アサリの場合は、塩分の度が3~4% シジミの場合は、0.5~1%(シジミは海水と真水が混じる場所に生息しているため)

③新聞などをかけて暗くする。(3~4時間置いておく)


上記が一般的な、貝の砂抜き方法になる。細かい解説は以下になります。

①は、貝が吐いた砂をもう一度吸い込まないようにするためです。

②は、水温が15℃以下だと十分に砂を吐かない(20℃ぐらいが理想)とされています。また、たっぷり水を入れるのではなく、貝が被る程度の水量にする理由は、貝が酸欠で死なないようにするためです。水中に溶け込める酸素の量は案外少ないため、酸欠にならないための処置です。(つまりエアーがあれば、たっぷりの水でも大丈夫)
海水(塩水)を入れる理由は、貝が弱る以外にアミノ酸を減らさないようにするためです。
貝は水中にいる間、細胞内と外の浸透圧を釣り合わそうとする習性があり、細胞内のアミノ酸を増やすことでこの調整をしています。

③は、貝は普段砂の中におり、暗くしないと砂を吐かないため。また、砂を吐かせる時間だが、書籍によってバラバラで長いものなら1日と書かれている。


ここからはネタ話
貝の砂抜きについて、色々書籍やネットで調べたが怪しい話がいくつかあったので乗せておく。

①お湯(50℃)で、砂抜きする。メリットは、15分程度で砂抜きが完了する・・との事。

②塩抜きをする。砂抜きが終わった後に、海水(塩水)を入れず砂抜きと同じ工程で3時間放置。塩気が抜けてうま味成分のコハク酸が醸成される・・との事。

③アサリは砂抜きがいらない。アサリは体内に砂を取り込んでおらず、実はアサリの表面に砂がついているだけ。そのため、むき身で使用する場合は砂抜きが不要・・との事。

っで、「どう思う?」と聞かれたら困るのだが、私個人の意見としては、普通に砂抜きするのをお勧めします。
プロとして料理でお客様に提供するときに砂が入っていたら、一発レッドカードで終わりです。長年の通説が安全だと思います。

(※美味しくなるなら試す価値はあるが、あくまで手順の省略なため。②は、貝が痛みそうなため)

参考文献 科学的に正しい料理のコツ 総合調理科学事典 第七回浸透圧に順応する無脊椎動物たち-東海大学出版部 知識の宝庫!目がテン!ライブラリー


公式ホームページ 料理科学の森

蜂蜜の特性 料理科学の森




普段パンに塗ったりヨーグルトにかけたりする蜂蜜ですが、その特性を解説します。
蜂蜜は、そのほとんどが転化糖(果糖とブドウ糖が1:1ぐらい)でできています。

転化糖とは、ブドウ糖と果糖の混合物。ショ糖より甘く感じられ、あとを引く濃厚な甘みを持つ。加えて転化糖は還元糖の一種なので、アミノーカルボニル(メイラード)反応が起こりやすい。つまり、お菓子などの焼き色がつきやすいという特性があります。さらに、吸湿性(水分を吸着しやすい)と保水性(吸着した水を保持する)が特に強い
(例)しっとり仕上げるため、カステラ生地などに蜂蜜が配合されているのはこのため。

また、蜂蜜にはアミラーゼという名の酵素が含まれています。この酵素は、でんぷんを加水分解する性質を持っています。(例:カレーに蜂蜜を入れたら次の日にシャバシャバになってた)

さらに、蜂蜜にはボツリヌス菌の休眠胞子が含まれる事が多いので、1歳未満の子供には絶対に食べさせたらいけない。(※加熱をしてもボツリヌス菌は熱に強いため、絶対に食べさせてはいけない)


ここからは主観の話です。

●「濃度の付けたソース」や「カレー」に入れた蜂蜜のアミラーゼを失活させる温度は色々調べたがハッキリとは分からない。ただ、私の感覚では、20分以上煮込めば大丈夫であろう。

●たまに、「蜂蜜は腐らない」と書いてある記事がありますが、普通に腐ります。これは、もともと水分があるのに加え、相対湿度が60%を超えると空気中の水分を吸収するためです。

●たまに「蜂蜜は肉を柔らかくする」というのを見かけます。ハッキリした理由は見つからなかったが、考えられる答えとしては
①蜂蜜のpHは約3.9(酸性のため肉を柔らかくする)
②砂糖と同様に、肉の保水性を上げることで肉が固く締まるのを防ぐ
と思われる。

●吸湿性が高いので、パンやケーキがしっとり仕上がり、水分の蒸発が遅く、湿度の高い日は吸湿する。

●フェノール性抗酸化物質が含まれるため、焼き菓子では酸敗臭が付きにくく肉料理は温めなおしによる風味が出にくい。

参考文献 総合調理科学事典 マギーサイエンスキッチン お菓子「こつ」の科学

公式ホームページ 料理科学の森

 

味噌の特性 料理科学の森




日本人には馴染みのある調味料である味噌。今回は、味噌の特性について見てみよう。
味噌は、調味以外にも以下のような働きがある。

①緩衝能(かんしょうのう)があり、入れる材料によって大きくpHが変化することがなく、味が変化しにくい

②魚や肉などのメチルアミンや不飽和脂肪酸不快なにおいをマスキングする

③味噌に漬け込むことで味噌の中のプロテアーゼなどにより肉や魚の肉質を柔らかくする

④酸性(pH5.0~4.8)を示すので、緑色野菜のクロロフィルが退色する


②③については、ぼたん(しし)鍋、西京漬け(味噌漬けにした魚は焦げやすいので注意)

④については、味噌汁などにほうれん草を入れる場合、60℃以下であれば緑黄色野菜(ゆでたもの)を入れても色はほとんど変わらない


ここからは主観だが、味噌には大まかに2種類の使い方がある。

味噌本来の風味を楽しむ
味噌汁は加熱しすぎると、コロイド粒子がうま味成分を吸着しながら大きく結合し、香り、味、舌触りが変化する。(基本的には、好ましくない)つまり、調理の最後の方で使用する。(味噌汁に味噌を加えたら火を止める理由)

臭みを取ったり、肉を柔らかくする
味噌煮など、生臭みを消すために味噌を用いる場合、加熱の最初から味噌を加える必要がある。したがって、風味が減るためあっさりした白味噌より、どちらかといえば味や香りの濃い豆味噌(たとえば八丁味噌)や麦味噌(仙台、信州味噌)が好まれる。

参考文献 タケヤみそ公式ホームページ 創業料理科学事典 NEW調理と理論 「こつ」の科学 おいしい料理には科学がある理由

公式ホームページ 料理科学の森